プレゼンでも面接でも、もう大丈夫。 超簡単あがり症克服術

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 目立つことがたまらなく好きな「芸能人気質」の人は別として、人前で話すのが得意という人はそう多くはないだろう。プレゼン、自治会等の会合、会社の面接など、複数の人の前で視線を浴びながら喋るというのは、何度やっても緊張するものだ。そもそも緊張しないなんて無理な話だ。多くの目が自分を舐め回すように見つめ、アラを探そうと必死になっているような気がしてどうにも落ち着かず、ちょっと「噛んだ」のをきっかけに頭が真っ白になって、全然先が続かない。声はどんどんかすれ、細くなっていく。ヤバイヤバイと思えば思うほどドツボにはまっていく。顔は真っ赤になり、汗が滴り落ち、吐き気までしてくる。もう何もかも終わりにして逃亡してしまいたい・・・。中にはこんな経験をした人もいるだろう。あがり症の人は半ばあきらめている。子供の頃から苦しみ続けてきた筋金入りの「苦手分野」を、大人になって克服できるはずもない・・そう考えているだろう。

 あがり症は本当に治らないのだろうか。そんなことはない。大人になると色々と衰えていく一方だが、子供時代より成長している点が一つある。それは冷静に自分を分析する能力だ。自分がなぜあがってしまうのか原因をきちんと分析し、簡単な練習をすることであがり症は改善する。今回は、大事なプレゼン前に、面接前に、是非実践していただきたい効果的なあがり症克服の為のヒントをお伝えする。

 

 
 あがり症の人が「今あがってるな」と感じる体の変化は、体が異常にこわばる、心臓がドキドキする、声や手が抑えようとしても勝手に震える、室温と関係なしに汗が出るなどだが、これはまさに目の前に並んで無言で自分を見ている「人」に対する、えも言われぬ不安感から来ている。この「対人不安」は誰でも持っている危険回避の為の脳の機能であり、抑えこもうと思って押さえ込めるものではない。目の前に並んでいる無言の人達の視線に対し、見られている側は「品定めをされている」と感じる。「この人間の能力はどうか」「この人間は私達にとって有用な話ができるのか」「話を聴くに値する知的レベルなのか」・・・自分に向けられる視線は、無言のジャッジメントとして突き刺さってくる。もし少しでも自分のウイークポイントに対して不安を持っていると、今この瞬間自分を見ている人によって、その部分に低い評価が下されていると感じてしまう。見ている方は「今晩は◯◯刑事の最終回だ・・楽しみだな」と思いながら彼を見つめていたかもしれないのに、彼の中では「この男はボソボソと喋って何が言いたいのかさっぱりわからないな」と思われているだろうと感じてしまうのだ。動物が本能的に危険回避行動を取るように、人間も自分に危険が及ぶととっさに避ける行動をとるが、脳と精神を発達させた人間はそれが心理面にまで及ぶ。「自分の評価が下がる」危険が迫っている状況だと脳が判断し、そこから回避するためのパワーを出すために心臓のポンプ機能を上げ、発汗を促し、振りかかる危険に備えようとしているわけだ。他人の評価は将来の自分に影響する「危険な状態」なので、ネガティブに評価されそうだと思い込んだ瞬間にそれを回避するためのエマージェンシーコールが鳴り響き、どうにもならない「あがった状態」に陥ってしまうというわけだ。

 「脳に元々組み込まれている機能じゃ、どうあがいたって逆らえないじゃないか」と思うかもしれないが、落胆するのはまだ早い。脳は神経が細かいわりに、結構騙されやすい。それを利用してやるのだ。


◯ 脳に「あがってないよ」と体のほうから逆信号を送る。

 「あがった」状態になっている時、体には異様なほどの力が入っている。まさに次の動作に向けて筋肉を緊張させ、爆発的な力をだそうと身構えている状態だ。まずはこれを解きほぐさなければならない。あがった人の体の中で大抵一番固まっているのは「首」と名の付いている場所だ。相手の行動を見定める為にに力を入れ、相手の手から何かが放たれた時にそれを避ける為に手首に力が入り、相手が襲いかかってきた時を想定して、飛び退く為に足首に力が入る。結果的に動けなくなるのだが、脳は恐怖のあまり体を硬直させてしまうのだ。猫のオス同士がケンカになった瞬間に両者フリーズしてしまうのを見たことがあるだろうか。まさに相手の次の動きをけん制して、お互いがすくみあがっている状態だ。この状態をほぐしてやる必要がある。運動をする前に誰でもするバカバカしいほど普通の動作だ。両足首をつま先を立ててグリグリとやる。続いて、両手首をプラプラと振る。首を大きく回す。そして、深呼吸だ。緊張している時はとにかく酸素を供給しようと体がムキになっているので、呼吸が浅くなる。その自分の浅い呼吸音を聞くと、強く「あがっている」ことを意識することになり、負のスパイラルに陥ってしまう。これを「深呼吸」で阻止する。筋肉をゆるめ、呼吸を深くする。そしてゆったりと、自分の脳にむかって「お前はあがってないんだよ・・・。勘違いするな」と言ってやる。

 首に力が入っているという事は、当然顔の筋肉もバリバリにこわばっている。筋肉のこわばりが原因で喋り始めてすぐに「噛んで」しまい、それがきっかけでパニクるという可能性も下げておく必要がある。口と表情筋をほぐす。大きく口を開けて「あいう、あいう、あいう、あいう」と発音する。滑らかに発声できるように繰り返す。「い」と発音する時に首の筋肉が引き上がるのを意識する。動かす事で血流が増し、動きがスムーズになっていく。
 次に声帯を開く準備だ。声が震えてしまうのは、声帯がきちんと開いていない為だ。別に大声を出す必要はない。プレゼンならあなたの声はマイクが拾うし、面接なら大声を張る必要があるほど遠くに離れてはいない。普段のように喋ることができればいいのだから、変に緊張する必要はない。両足を肩幅に広げ、出る限界ギリギリの低い声で「あー」と数十回発声する。声帯が振動し、緊張によって失われていた普段の機能を回復する。

 最後に舌が回るようにしておく。舌の動きが悪いと発音が不明瞭になる。何かを説明している時、これでは聞き取りにくいかもしれない・・と思った途端にまた「あがり」が再発するかもしれない。こうならないために、舌の柔軟性を確保しておく。舌先で左臼歯の内側、前歯の内側、右臼歯の内側をタッチする。(5回)同じように今度は右臼歯 前歯 左臼歯 の順番でタッチする。(5回)これを徐々に速度を上げて何度か繰り返す。人目が気にならない場所であれば、一度思い切りベロを下に引っ張るように力を入れて、「べ~」と声を出しながら何度か出す。

 さあ、これで脳によって勝手にガチガチにさせられていた体のあらゆる部分を、自らの意志で緩めてやった。言ってみれば、体を動かすことによって、勘違いしている脳にそれを教えてあげるようなものだ。「あがっている」状態は「脳の勘違い」であり、いつもの自分ではないんだよ、と気づかせてやるわけだ。これでとりあえずフィジカルな準備は整った。

 

◯ 人前に立っているあなたに対して自信を持っていいが、名優である必要はない。

 あがり症の人はどうしても自分に自信がないために、他人からの視線に過敏になってしまう傾向がある。しかしよく考えて欲しいのだが、例えばプレゼンで多くの人に何かを伝える役割を担っているあなたは、それができる人だという前提があるからこそ、そこに立っているのだ。何の能力もない、誰からも必要とされない人間に大事な役割をさせるわけがない。「人前に立っている」ことそのものが、あなたが必要とされている、そしてその能力がある、という証なのだ。「あがる」という事は他人が与えてくれているあなたへの評価を、わざわざ自分で否定しているようなものだ。
 一方で、期待に応えたいという気持ちが「あがり」を増幅させてしまうということは、必要以上に他人から「よく見られたい」と思う気持ちが強いために起こる過剰反応ということでもある。面接などでは、自分を必要以上に「できるヤツ」に見せたいと思うあまり、その理想像とかけ離れているのではないかという恐怖感にがんじがらめになってしまうのだ。あなたは他人に求められる能力を持っている人ではあるが、あなた以上のものではない。無駄に背伸びをせず、あなたができる事をできる範囲でやればいい。持っている能力の7割も出せれば大成功だ。誰もあなたに名優のような表現力を求めているわけではないのだから、伝えるべき事を伝えさえすればいいと、自分へのミッションのレベルを下げておこう。

 

◯ つなぎ変えた回路のすぐそばには、以前の回路が残っている。

 あがり症は遺伝病ではない。記憶にないくらい昔に、何かのきっかけで出来てしまった脳の回路にすぎない。小学校の時の何かの発表がきっかけかもしれない。もしかしたら、幼稚園にまで遡るかもしれない。あるきっかけで「あがる」回路が出来上がり、同じ条件下で繰り返すようになり、繰り返す経験が「あがり」を強化してしまった。その結果があがり症だ。その回路を「あがらない」回路につなぎ替える為の方法が、上記の簡単な運動と、心もちの転換だ。
 一度きちっとつなぎ替えることができれば、自分でも驚くほど「あがり」から開放される。人前に出て喋るのが苦手だと「思い込んでいた」だけのあなたは、元々持っている能力を発揮できるようになる。いい回路を作って、ポジティブラインに乗ることができれば、もう勝ったも同然だ。ただ、一つ注意したいのは、ポジティブラインの横にはすでに廃線になってはいるが、以前の「あがり症行き」のネガティブラインが残っているという点だ。何かのきっかけでポイントが切り替わり、そちらの線に迷い込んでしまうかもしれない。
 それを防ぐ為に有効なのが、いわゆる「ルーティーン」だ。イチローのずっと変わらない、バッターボックスに立つまでの一連の動作、五郎丸選手の例のポーズ。常に同じ動作をすることで、メンタルを安定させ、持っている力を100%出せるよう自らコントロールする。一度できた「あがらない」回路のほうに入る為に、象徴となるルーティーンを作っておくのだ。そう簡単には忘れないような、「単純で特徴的な動作」がいい。五郎丸ポーズが幼児でもマネできるのは、まさに単純で特徴的だからだ。成功の回路への信号となる動作を一つ作り、あがりそうな場面がくる前にそのポーズを取る。さすがに五郎丸ポーズのようなものを人前でやるとなると勇気がいるだろうから、例えば片手でできるポーズでもいいし、手を後ろにまわして背中のほうでできるポーズでもいい。とにかくどこでもサッとできて、忘れないポーズだ。そのポーズを取った瞬間に、あがらない回路への信号に「青」が点灯し、遮断機が上がる。廃線のほうにはきっちりと遮断機が下りているので、間違っても入り込むことはない。これでもうあなたは未来永劫、あの苦痛を味わう事はない。


 この克服法はあまりにも単純で、「あがり症克服セミナー」のような高い受講料もいらない。それだけに「この程度のことで治るものか」という気持ちが芽生えてしまうかもしれない。しかし、そういう疑念が少しでも残っていると、すぐにネガティブラインが運行し始めてしまう。今回のメソッドはやったところで特に体に悪影響のある事が書いてあるわけではないので、まあ騙されたと思って試してみて欲しい。