勉強が楽しくなる、5つのチェックポイント

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 勉強をしなければならない・・。この言葉に常に追い立てられていたような気がする。節目節目に受験があり、そのハードルを超えるために機械的に勉強をしていたという印象しかない。「俺は勉強を楽しんでいる」と言っていた中学時代の友人を思い出す。常に学年順位は一桁の前のほうで、そりゃ楽しいだろと内心思っていた。できるやつは初めからできる。集中力が違う。やる気が違う。そんな奴には俺たちの苦痛など想像もできないだろうな・・・と。しかし、この「楽しむ」という言葉が、実は極めて重要なキーワードだったことが今になってわかるのだ。彼は「頭が良かったから、勉強ができた」のではなく、「勉強を楽しんだ事で頭が良くなったのだ」と。彼がそのノウハウをその時点で知っていたかどうかはわからない。が、間違いなくそれを実行していた。勉強そのものを楽しむ事さえできれば、そこに苦痛はない。当然といえば当然だ。レジャーを楽しんでいる人が、レジャーに苦痛など感じないのだから。

 今回はこの、勉強が楽しくなる5つのチェックポイントについて書きたいと思う。これは実は勉強以外の「ハードルが存在する、やらなければならない事」すべてに当てはまる方法論で、汎用性が極めて高い。自分の気持ちの中にこのチェックポイントをセッティングして実行するだけで、色々な事が「楽しく」なってしまうはずだ。これを意識しておけば人生そのものが楽しくなるので、ぜひおすすめしたい。


1. 脳を楽しませる。

 漠然としているが、実はこれが最も重要だ。脳は何かを記憶したり経験したことによって、具体的な成果があがることを喜ぶ傾向がある。別に脳がニコニコ笑うということではなく、記憶した事によってある目的が達成されると、より多くのものを記憶しようと活性化するということだ。成果によるフィードバックが起こるのだ。一つ成果があがると、より多くの成果を求めて活性化するために結果として記憶力が上がっていく。喜べば喜ぶほど、脳は新しい何かを求めて活気づく。人間の感覚としては、その瞬間には勉強することが楽しくなっているというわけだ。このポジティブなサイクルを作り上げることができれば、勉強そのものが快楽となる。
 しかし、私達はこのサイクルをなかなか作れない。「いくら楽しめと言われても、英単語の暗記なんてどうやったって、苦痛だよ・・」英語が苦手な人はそう思うだろう。確かに根本的に嫌いなものに、これを当てはめようとしても無理が出るのは当然だ。
苦手なものさえも、楽しめる域にまで持ち上げることはできるのだろうか。

 


2. それを使ってあなたは何がしたいのか。理想とする未来の自分を描き出す。

 例えば英単語を暗記することの究極の目的は何だろうか。目先の目的は、中間テストの勉強だったり、受験を乗り切るためだったりするが、最終的には「英語が喋れたり、書けたり、読めたりするスキルを、人生を豊かなものにする為のツールとして自分の中に組み込むこと」ではないだろうか。職場にいるアメリカ人と流暢に喋ってコミュニケーションできたり、英語のニュースサイトをすらすら読めたり、外国で英語を使ってビジネスをしたり・・・英単語を暗記する事の到達点は、自分の人生を豊かにすることだ。自分の人生が豊かになっている時、幸福感を感じない人はいないだろう。英単語を暗記する事の先に自分は何を思い描いているのか。最終的にそのスキルを使って何がしたいのか。まずこの「最終的な目的」をできるだけ多くリストアップすることから始めよう。今現在のスキルからは到底ムリと思えるような目的でも構わない。それは学習した後の到達点なのだから、どんな夢でも描くことが許されている。10でも20でも、思いつく限り書き出す。
 この時注意する点がある。「完璧にマスターする」というような、遠大で抽象的な到達目標は避けるということだ。そもそもマスターとはなんだろう。英語の完璧なマスターとは?すべての単語を憶えきることなどできるわけもない。そもそもネイティブだって憶えていない。目的は今身につけようとしているスキルをツールにして、人生を豊かなものにすることであって、完璧にマスターしなければいけないというものではない。日本人は発音コンプレックスが強いので、とにかく綺麗に喋ることができないという理由でコミュニケーションに消極的だ。ところが諸外国では、相当にブロークンな英語でも平気でネイティブに話しかける。とてもマスターしているとは言いがたい英語で、楽しそうにやり取りをしているのだ。抽象的な目標は計画自体がぼやけてしまい、目的の場所が曖昧になってモチベーションが維持しにくくなるので、絶対に避けよう。
 さあ、書けただろうか。やまのてっぺんに旗が立っている。そこが到達地点だ。理想とする自分の未来の姿がそこにある。と、実はここで、大抵の脳は拒絶反応を示す。そんなものできるわけがないと。そこで必要なのが、「登っている事に気づかないくらい段差の小さい階段」の設定である。

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3. 高すぎる山は見た瞬間脳が拒絶する。目標はほとんど段差のない階段式で

 山登りの経験のない人が、エベレストの頂上を見て登れるとは思わない。同じようにあまりにも高い理想を掲げても、脳はリアリティがない目標には関心を示さない。では理想とする到達点など描き出しても無意味ではないか?そんなことはない。この目標とする最終的な到達点は、あなた自身がその場所に至るまでの登山ルートを作っていく為の重要な目印となるからだ。
 エベレストに登るには、まず地上で重い荷物を背負って歩くキツイ訓練で基礎体力をつける所から始まる。実際のエベレスト登山(南東稜ルート)では、急性高度障害を防ぐため一日あたりの高度差を700m前後に抑えて細かくキャンプを設営し、さらに6400mでアドバンストベースキャンプという、頂上を目指すための大規模なキャンプを張る。そこから上も一気に行くわけではなく、さらにいくつもキャンプを張って、コツコツ登っていく。とんでもないチャレンジに見えるエベレスト登山は、実は石橋を叩いて渡るような、極めて慎重な作業なのだ。目標達成に必要なのは大胆な冒険心ではなく、大きな目標の為の小さな作業をコツコツとやっていく忍耐力なのだ。
 これがそのまま当てはまる。理想とする到達点に至るまでに、自分でいくつもの「ベースキャンプ」を設定する。さらにその「ベースキャンプ」に到達するにはどうすればいいか、細かく区切っていく。例えば頂上が100として、ベースキャンプを10個作ったら、ベースキャンプ1に到達するための階段を考える。それが英語なら、到達に必要な単語の数かもしれない。文法を定着させることかもしれない。世界史ならエジプト文明について詳細に知ることかもしれない。
 この登山ルートには、受験→合格という途中の目的(ベースキャンプ)も設定する。受験英語は使えないなどとよく言われるが、憶えた単語が無駄になることはない。最終的な目的への途中のベースキャンプに受験→合格を設定しておけば、その間の勉強が、ただの「受験の為だけの勉強」で終わる事もなくなる。
 さあ、具体的なルートは策定できただろうか。この時、確認してもらいたいのが、作った目標の一段分が自分にとって簡単にクリアできると思えるものかどうか、という点だ。ほとんど登っているのがわからないくらい、薄っぺらな階段にすることが大事だ。薄っぺらだが、一段は一段。長い道の一歩である事は間違いない。一段上がっても、苦しんだ感覚は全く無いだろう。だがそれを昇り続ければ、確実に頂上にたどり着く、というわけだ。

 


4. 忘れる前にもう一度やる。これで定着する。

 目標を設定したら、後は小さな階段を一歩ずつ昇るだけだ。脳に小さな成功体験を与え、もっと憶えたいと思わせればもう勝ったも同然だ。しかし、具体的にどう脳に成功体験を与えればいいのか?脳に記憶する喜びを与えるにはどうしたらいいのか。 
 記憶をより確実にする方法がある。それは、「忘れる前にもう一度やる。」なんだ復習のことか。その通り。しかし確実に定着させるには、憶えてから復習するまでの日数が大事になる。
 「エビングハウスの忘却曲線」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ヘルマン・エビングハウスというドイツの心理学者が発見した、人が憶えたものを忘却していく時間経過を示すグラフのことだ。このグラフが示すように、人間は憶えたことをそのままにしておけば、20分後には42%を忘れ、 1時間後には56%を忘れ、1日後には74%、1週間後には77%、そして1ヶ月後には79%を忘れ去っている。

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 人間は忘却する動物だ。実は消えてなくなるわけではなく、脳にしまわれて取り出しにくくなっていくという事なのだが、この機能がないと頭は情報で溢れかえって始末に終えなくなってしまう。必要なものだけを効率よく思い出せるように、取捨選択していくわけだ。短期的に憶えたものも、思い出さないままにしておけば、脳はそれは不必要と判断し忘却するリストのほうに入れてしまう。長く記憶として定着させるには、この曲線に抗う必要があるのだ。それが復習だ。

 学習してから1日経つと、74%の記憶が失われるが、裏を返せば26%が中期記憶として定着していることになる。このタイミングで復習すれば、忘れてしまった74%の内の26%(19.24%)がさらに中期記憶として定着する。一度の復習で合計で45.24%が中期記憶として定着することになる。これを繰り返すと1週間で約90%が長期記憶となって定着している計算になる。個人差もあるだろうが、復習の効果は確実にあがるだろう。地道な作業だが、これなくして記憶の定着は実現しない。一度定着した記憶はそう簡単に失われないから、財産となって脳に蓄積される。あなたの目標達成の為の小さな一歩は、こういう地味な作業の積み重ねだ。

 

 

5. あなたはあなた。他人との比較は極力避ける

 挫折しやすい人の中でも他人との比較を繰り返すタイプは一度はまるとなかなか抜け出せない。私自身がこれだった。冒頭の頭のいい友人に対する私の嫉妬は、彼と比較してできない自分に対する苛立ちから来ている。コンプレックスをエネルギーに変換して猛然と勉強できるタイプの人は、一見ネガティブなようで、自分の能力に対して非常にポジティブだ。追い抜いてやると考えられるのは、やればできるという確信があるからだ。こういうタイプは競争がそのまま人生の充実なので、何の問題もない。私はこれとは真逆で、初めから白旗を上げてしまうタイプ。あいつは元々頭がいいんだから俺がいくらやったって追いつけるわけがないと、チャレンジを放棄して自分で自分に限界を作ってしまうのだ。自分に限界を作るというのは、やらないで済むように自分に逃げ道を用意してやるということだ。これをやってしまうとモチベーションは全く上がらなくなる。ガソリンが切れたエンジンのようなもので、プスプスいったきり動かなくなってしまう。勉強そのものが色あせてしまい、つまらないから適当にやることになり、成績は上がっていかない。
 今の私が、この時の私にアドバイスできるとしたら、「上も下も見るな、誰とも比較するな。お前の満足だけを考えろ」という一言だろう。上を見て妬もうと思えば、自分より頭のいいやつなどいくらでもいる。下を見て見下そうと思えば、こちらもいくらでもいる。そんなどうでもいい比較にとらわれてやる気を失ったり、安心したりして勉強へのモチベーションを失う事は、自分の人生にとってマイナスでしかない。勉強は、あくまで自分の人生を豊かにするための手段にすぎないのだから、そもそも他人と比較する意味などないのだ。社会が子供の頃から競争を強いるので、仕方のない一面もある。また競争がお互いを高め合うことにつながる事も多い。それ自体は否定しないが、自分がそういう社会のスタイルに明らかに馴染まないとわかったら、距離を置くほうが結果として自分の人生を豊かにできる。競争原理に巻き込まれた事で人生がつまらないものになってしまったら、本末転倒も甚だしいではないか。


 以上、今回は勉強を楽しくする5つのチェックポイントとして書いたが、始めに言ったように、これは色々な事に当てはめることができる。例えば、どうがんばっても片付かない超のつく汚部屋をすっきり綺麗にするという、極めて高い山がそびえていても、「ベースキャンプ」を作り、そこに到達するための具体的で簡単な「階段づくり」をすれば、かならず実現する。ベースキャンプはリビング、キッチン、個室をそれぞれ完全制覇することに置いてみよう。そして、そのベースキャンプにたどり着くための階段は、リビングなら、その部屋を何箇所かに区切り、初日にはその区切った部屋の一箇所だけを綺麗にし、今後一切その場所だけは汚さない。ベルサイユ宮殿でもないかぎり、リビング全体が綺麗になるのはあっという間だろう。一度成功すれば脳がその成果に喜び、綺麗にする事に対するモチベーションが一気に上がる。それ以降も登山ルートに従って一歩一歩登っていけばいい。とにかく大事なのは、脳が喜ぶ目標達成が簡単な階段を、淡々と登り続ける事。これだけなのだ。

 あなたの人生をより豊かなものにするために、この方法が役立つ事を祈っている。