手元に置いておきたい本 10冊  ビジュアル編

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今回は仕事や趣味など関係なく、手元に置いておきたい、おすすめの本をご紹介していきたい。まずはビジュアル編。見ているだけであれこれ考えてしまう。見ているだけで楽しい。時間のある時にパラパラめくっているだけで満足する、そんな本達、10冊。

 

 

 脊椎動物の骨を、詳細な解説とともにひたすら紹介する本。黒い背景の中に白く浮かび上がる骨は極めてアーティスティックだ。多様な脊椎動物も、一皮剥いて骨だけにすると同じ仲間だと感じる。まるで神様が一つの玩具をあれこれいじって遊びながら色々な形に作り変えたのかな思ってしまうほどだ。自分たちが同じ根っこから分かれたという事を意識せずにはいられない。そして、ものすごい時間をかけて、これだけの多様性を獲得した脊椎動物が愛おしくなる。飼っている犬や猫を思わず抱きしめながら、こうつぶやくだろう。「俺たちって兄弟なんだな!」 

 

 

 

 大森貝塚発見や、縄文土器(cord marked pottery)の名付け親でも知られるアメリカの動物学者のエドワード・S・モースは、民具や生活用品など、さまざまなものを本国に持ち帰った。その中に彼が撮影した5万点もの膨大な写真コレクションがあった。この写真集はその中から選ばれた300点だ。人工着色による当時の農村風景の写真などは、そんな風景には出会ったこともないのに、郷愁をかきたてられる。モノクロも風情があるが、人工着色とはいえ、やはりカラーがいい。そこに間違いなく生きていた人々の呼吸を感じるのだ。ほんの百年前なのに、全く別の世界のようだ。舗装もビルも自販機もない世界。VR技術とCG技術が触覚や嗅覚を含めて完璧な疑似体験が可能なほどに完成したら、100年前の農村を歩いてみたい・・そんな気分にさせてくれる一冊。

 

 

 

 全く目的のわからない巨大な建造物。人の気配はまったくないが、廃墟ではない。どこかペシミスティックであり、オプティミスティックでもある。野又氏の描く世界は夢の中で見たような錯覚をおぼえる。一人でこの場所に取り残されたらどうしよう・・・と恐怖と期待がないまぜになった、不思議な感覚に襲われる。彼の絵に欠かせないのが、そこに大気が存在していることを強く意識させる「空模様」だ。特に建造物の後方、画面下方が暗く沈んでいく作品を見ると、なんとも言えない不安な気分になりつつも、そっちに何が待っているのか思わず行ってみたくなるのだ。CGで自由に作れてしまう時代に、あえてキャンバスに絵の具で創りあげられたこの異世界。怖いので一度きりでいいが、実際に入り込んでみたい、そう思わせる。

 

 

 

 世界的なコンピュータソフト会社の社員であり、サイエンス・ライターであり、周期表でテーブルを作ってイグ・ノーベル賞を取った元素ヲタクであるセオドア・グレイによる、元素の図鑑。その元素で作られているさまざまな品物も同時に紹介、基本データとして、原子量や結晶構造などもわかるようになっている。また彼の書く文章がウィットに富んでいて、実に面白い。元素と聞いてうんざりする人も、この本なら間違いなく楽しめる。科学好きの子供が親戚にいたら、プレゼントしてあげたい。

 

 

 

東京にある、誰かの部屋。それ以上でもなくそれ以下でもない。一切飾り気なし。ただひたすらリアルだ。とにかく写真に顔を近づけて、何が置いてあるのかをいちいち探りたくなる。他人の部屋というのは、なんでこうも面白いのだろう。自分と全く違う文化の人の部屋は特に面白い。他人に見せる必要のない場所は、まさにその人そのものだ。これほどたくさん他人の部屋に入りこむことはまずないので、非常に貴重な経験ができるだろう。

 

 

 

 大正11年から昭和19年まで東京社(現ハースト婦人画報社)から発行された児童向け雑誌「コドモノクニ」に掲載されたイラストや詩などを網羅した上下巻の作品集。時代を超えるアートのセンスにただひたすら敬服する。これを手に取ることができたこどもはさぞや楽しかったことだろう。竹久夢二、武井武雄など当時のトップイラストレーター達と、北原白秋、野口雨情、西条八十といった詩人のコラボレーションは、「子供向け」という枠を完全に超えている。これほど豊穣な子供向け雑誌が作られていた時代と、あの暗黒の戦争の時代が一時期重なってることが不思議だ。

 

 

 

言わずと知れた葛飾北斎のスケッチ集。絵手本として制作された「漫画」だが、人物、動物、植物、鉱物、気象現象、風景、道具、建物、妖怪などなど・・描かれた数は約4000図。人間が考えうる、絵で表現できるほぼすべてのものを網羅している。線だけで硬さ柔らかさを描き分け、あらゆる動きを表現している。まさに現代のマンガ表現の源流。瓦屋根の建物など、緩やかな曲線と直線で構成されたものを、墨と筆を使って全く迷いなくカチッとした線で描き切っているのだが、どうやって描いたのか見てみたい。

 

 

 

 さきほどのTOKYO STYLE につづいて都築氏の本2冊目。こちらは日本中の怪しげなスポットばかりを網羅したガイドブックだ。この東日本編だけで565ページ、オールカラー。10ページもめくればめまいがしてくるので、ゆっくり楽しもう。洗練されて隙の全くないアミューズメント施設にあきあきしている人にお勧め。東日本だけでこれほどあるという事実にまず驚くだろう。発行年から15年以上が経過しているので、果たしてどのくらいの施設がまだ生き残っているのかわからない。写真を見た後で、今どうなってるのか探りに行くのも面白い。

 

 

 

 「百鬼夜講化物語」「模文画今怪談」など、その存在を知られていなかった江戸期の幻の怪談・妖怪絵本6作品が、詳細な解説とともに完全収録されている。中でも「姫国山海録」が興味深い。著者の南谷先生という人物については詳細不明で、漢文によって編まれている本文や和漢三才図会の引用がある事などから、知識人階級が趣味で編んだものではないかと考えられている。子供が描いたような絵の拙さが味わい深い。今もさまざまに形を変えて親しまれる妖怪。そんな妖怪好き日本人の、江戸時代のドキドキが伝わってくる。

 

 

 

病気で右目の視力を失ってなお写真を撮り続けているアラーキーの23年前のモノクロ作品。東京で猫のいる風景を撮った写真集。彼自身の飼猫であるチロの写真集もあり、猫好きで有名だが、この写真集の猫は風景に溶け込んでいる。町で暮らしている猫たちのさりげない日常が切り取られている。どこにいるのか発見できない写真もあって、見つけると思わず「いた」と声を出してしまう。どこの猫の骨ともわからん町猫を愛するアラーキーの温かい視線を感じる写真集だ。

 

 以上10冊。どれも時間があるとなんとなく次次とページをめくってしまい、時間が結構経過していて慌てる。もちろんじっくりと向き合って読んでも読み応えのある本ばかりだ。なにかしら「気づき」を与えてくれる、そんな10冊だ。もしこれという物があれば、お手にとっていただきたいと思う。紹介者として、これ以上の幸せはない。